「黄金虫」(ポー)

時代を超えた面白さ、まさに古典的名作

「黄金虫」(ポー/巽孝之訳)
(「モルグ街の殺人・黄金虫」)
 新潮文庫

「黄金虫」(ポー/渡辺温訳)
(「ポー傑作集」)中公文庫

訪ねてきたジュピターから、
主人ルグランの変調を
聞いた「わたし」は、
すぐ彼のもとを訪れる。
ルグランは「黄金虫が
財宝をもたらす」と言い、
宝探しの探検に出かけるという。
彼の精神の錯乱を
心配する「わたし」は
探検に同行する…。

エドガー・アラン・ポーの、というよりも
ミステリの古典的名作である本作品、
やはり時代を超えた面白さがあります。

【主要登場人物】( )は渡辺温訳版
ルグラン(レグランド)
…零落し隠遁している貴族。
ジュピター(ジュピタア)
…ルグランの使用人。
「わたし」(「私」)
…語り手。ルグランの友人。

本作品の古典的名作部分①
SFの祖として~宝探しとその冒険

海賊の残した財宝を見つける。
本作品が書かれた19世紀当時、
大人でさえもその世界にはまり込んだ
本作品のワクワク感は、
現代でも十分に通用します。
本作品以後、
スティーブンスン「宝島」をはじめ、
財宝探し小説は
続々と登場することになります。
現代では陳腐なテーマになって
いるのではないかと思っていましたが、
近年のジュヴナイルやライトノベルを
検索すると、まだまだかなりの作品が
書かれていることがわかります。
本作品こそ、まさに
それらSF小説・冒険小説の
源流に位置しているのです。

本作品の古典的名作部分②
ミステリの祖として~暗号解読

本作品は、
基本的には冒険小説でありながら、
後半1/3程度は暗号の解読解説に
費やされているのです。
いささか冗長に
感じられるかもしれませんが、
その説明は極めて数学的であり、
「謎の論理的解明」という
ミステリの根幹を成す要素が
明確に現れているのです。
我が国でも
乱歩の「二銭銅貨」をはじめとする
暗号ミステリは、本作品の影響を
強く受けているはずです。
本作品こそ、まさにそれら
探偵小説・推理小説・ミステリという
大河の最初の一滴と言えるのです。

本作品の古典的名作部分③
エンタメの祖として~「チーム」の存在

じっくり読み込むと、
本作品の登場人物三人は
「チーム」となっていることに
気づかされます。
ルグランの単独行動・一人称告白で
あったなら、小説としての面白みは
全くなくなっていたでしょう。
偏執的な主役を
ルグランに負わせながら、
その役が引き立つように
ジュピターが配置されています。
彼の行う「失敗」こそが
作品に奥行きを与えているのです。
そしてルグランの行動・思考を
見つめる「わたし」の目が、
読み手に臨場感溢れる驚きと発見を
もたらしているのです。
エンターテインメントは
「チーム」が必要です。
小説でもアニメでも映画でも、
エンターテインメントは
「チーム」の存在が欠かせません。
本作品こそ、
それらエンターテインメント作品の
嚆矢といえるのです。

わたしは小学生の頃、
学校図書館で子ども向けに訳された
本作品を読んだ記憶があります。
そのせいか、本作品は
子ども向けのものだという認識を
ずっと持っていました。
違います。
本作品こそ大人が味わう小説です。
もちろん中学生高校生にも
ぜひ読んで欲しい作品です。
古典的名作をぜひご賞味あれ。

※それにしても、
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806;48†8¶60))85;1‡(;:‡8†
83(88)5†;46(;8896?;8)
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8806*81(‡9;48;(88;4(‡?34;48)
4‡;161;:188;‡?;
という暗号が
A good glass in the bishop’s
hostel in the devil’s seat
forty-one degrees and thirteen
minutes northeast and by north
main branch seventh limb east
side shoot from the left eye of
the death’s-head
a bee line from the tree through
the shot fifty feet out.
となって、
主教の宿にある悪魔の玉座には
上等のガラスがある――
二十一度十三分――
北東で北よりの方角――
東側の主な枝、七番目の大枝――
髑髏の左目から撃て――
木から狙撃地点を経て五十フィート
向こうまで直進せよ。
となるのですから、やはり驚きです。

「モルグ街の殺人・黄金虫」
 収録作品一覧

モルグ街の殺人
盗まれた手紙
群衆の人
おまえが犯人だ
ホップフロッグ
黄金虫

「ポー傑作集」収録作品一覧
黄金虫 渡辺温 訳
モルグ街の殺人 渡辺温 訳
マリイ・ロオジェ事件の謎 渡辺温 訳
窃まれた手紙 渡辺啓助 訳
メヱルストロウム 渡辺啓助 訳
壜の中に見出された手記 渡辺温 訳
長方形の箱 渡辺温 訳
早過ぎた埋葬 渡辺啓助 訳
陥穽と振子 渡辺啓助 訳
赤き死の仮面 渡辺温 訳
黒猫譚 渡辺啓助 訳
跛蛙 渡辺啓助 訳
物言ふ心臓 渡辺温 訳
アッシャア館の崩壊 渡辺啓助 訳
ウィリアム・ウィルスン 渡辺温 訳
渡辺温 江戸川乱歩 著
春寒 谷崎潤一郎 著
温と啓助と鴉 渡辺東 著

(2022.5.6)

Jakub ZemanによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「黄金虫」(ポー/佐々木直次郎訳)

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